1.糖結合タンパク質(レクチン)の構造・機能解析
細胞表面には,様々な大きさや構造をもつ糖鎖が存在しており,細胞間の相互作用や免疫などの生体防御機構において重要な働きをしています。このような複雑な構造をもつ糖鎖は,特異的な糖結合タンパク質であるレクチン(lectin)によって認識されることによってその役割を果たすことができます。本研究室では,このように生体内で重要な働きをしているレクチンを様々な生物から単離するとともに,その構造と機能を生化学的手法やX線結晶構造解析を用いて明らかにするとともに,それら遺伝子工学的に微生物で発現することにより,これまでにない新規な活性や特性をもつ人工レクチンの研究を行っています。
一例として,海産無脊椎動物グミ(Cucumaria echinata)が持っているカルシウムイオン依存性(Ca2+を用いて糖を認識する)レクチンの一つであるCEL-IIIの立体構造を下に示します。グミ(Cucumaria echinata)は九州北部の海底に大量発生している棘皮動物(ナマコの一種)で,その体液中には強い溶血活性を示すカルシウム依存性レクチンCEL-IIIが含まれています。これまでの研究から,CEL-IIIは赤血球膜表面の糖脂質と結合した後に立体構造を変化させ,膜の中で会合することにより溶血を引き起こすことが明らかになっています。このような作用は細菌が持つタンパク質性毒素などとも共通する作用であり,現在どのような立体構造変化が細胞膜との相互作用に関係しているのかをX線結晶構造解析などの手法をもとに研究しています。
2.タンパク質毒素の構造と機能の解明
上に記したCEL-IIIのように,レクチンの中には細胞毒性を示すことで,外敵から身を守ることに役立っているものが多くあります。特に海産動物は陸上の動物と異なる興味ある構造や機能を持つ毒素タンパク質が存在していることから,本研究室ではそのような毒素タンパク質についても構造や機能を研究しています。現在までに,ラッパウニの叉棘(さきょく)などから数種類の毒素タンパク質遺伝子のクローニングを行い,その構造を明らかにしています。
3.超好熱菌由来酵素の構造・機能解明
超好熱菌は火山や海底熱水鉱床などの高温環境で生育し、それらが生産するタンパク質は高い耐熱性を有していることが知られている。また、超好熱菌のほとんどが生物の第3のドメインであるアーキアに属しており、新規代謝系・酵素が多く見出されている。そこで、それらの酵素の探索・有効利用の研究を進めている。その中で、超好熱菌由来酵素を遺伝子組換えタンパク質として大腸菌を宿主に用いて生産させると、酵素活性を示さないか、著しく低い活性しか示さないものが知られている。加熱によって酵素活性が活性化されるため、その時の構造変化の解明の研究を行っている。構造変化の解明にはX線結晶構造解析及びX線小角散乱測定を行っている。
サンプリング風景 X線小角散乱測定
4.膜タンパク質の立体構造解析
膜タンパク質のなかでも膜貫通タンパク質は生体膜内に存在し、物質輸送、情報伝達などの重要な機能をもっており、現在市販されている医薬品の七割程度が、その標的としていることが知られている。そのため、膜貫通タンパク質の立体構造の解明を行っている。
Cucumaria echinata由来CEL-IIIの糖複合体構造 |
Cucumaria echinata由来CEL-I |
Cucumaria echinata由来CEL-IV |
高熱菌由来IPPイソメラーゼ |
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E型肝炎ウイルスORF2 |
日本脳炎ウイルスへリカーゼ |
キク科アシルトランスフェラーゼ |
高熱菌由来IPPイソメラーゼ8量体構造 |
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マウスカルノシナーゼCN2 |
マウスHv1 C末ドメイン |
To be continued …. |
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